ドクターUの幻語新作9【幻視】

ドクターUの幻語新作9【幻視】

【幻視】げんし Visual Hallucination
対象物が実際には存在しないのに見えること。人や獣、昆虫、情景、幾何学模様など様々な事物に関する幻視があるといわれています。

幻視はよく話題にされる症状ですが、見えていない人には理解のしにくい状態でもあります。疾患によってはかなり鮮明に見えるものがあり、視野の一部に見えたり、自分の背後に見えるとか頭の中にイメージとして浮かんでくると表現される方もいらっしゃいます。

視覚障害の方によくみられるシャルル・ボネ症候群についてはかなり詳しいブログがいくつかありましたのでのでそちらをご参照下さい。

欧米のほうではアルコール依存の方がみる幻視として「ピンクの象」という言葉が有名でディズニーのアニメ「ダンボ」の中で小象のダンボが間違って飲酒(シャンパン?)してしまいピンクの象が行進するのが見えるというシーンがあります。

ディズニー「ダンボ」より

これはJack Londonの小説の中でアルコール依存症の患者さんが “blue mice and pink elephants”が見えるという記載がありここから有名になったものと思われます。

余談ですがベルギーのビールにはDelirium Tremensという銘柄があり(ネットでみるとアルコール8.5%と表記されています)、綺麗なピンクの象が缶に描かれてかわいいのですが幻視が見えたら怖いですね。
デリリウムトレメンスというのはいわゆる振戦せん妄のことでアルコール離脱の際に見られる意識障害の症状です。
幻視のほかにけいれんをきたすこともあり結構重症の症状となります。

幻視は幻覚の一種ですが器質性の脳障害(薬物・アルコール性の障害、レビー小体型認知症、てんかん、脳の感染症などなど)の場合によくみられる症状でおそらくは、せん妄などの意識障害や脳の器質的変化が絡んでいると思われます。
ですが統合失調症のような内因性の精神疾患であっても映画「ビューティフルマインド」に出てきたような現実と区別のつきにくい幻視を訴える方もいらっしゃってこの辺はまだ未解明の部分ではあります。この辺が患者さんにはどのように見えているのかお聞きしても見えない私には具体的に想像できないのがいつも苦しいところです。

漫画「ペコロスの母に会いに行く」では夫や妹など現実ではいなくなった人たちの幻視が見える89歳のみつえさんが出てきます。
「死んだ父ちゃんに会えるのなら、ボケるのも悪いことばかりじゃないね」という言葉が印象的です。

亡くなった祖母のことを思い出してほろりとさせられました。皆さんも読んでみてくださいね。